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動物的なセックスとは何か? 女の性革命

上野千鶴子の著書の中では、しばしば「動物的なセックス」という言葉を使われている。動物的なセックスとは何だろう? 本能に任せたセックスということだろうか?

 

上野千鶴子は「〈おんな〉の思想」の中で書く。

 

「1976年にミシェル・フーコーの『性の歴史』が刊行されて以来、性を語るにあたって、「自然」と「本能」という言葉は禁句となった。性は、自然科学から人文社会科学の対象領域に入った。」

 

言葉を変えれば、人間の性行動は「自然」に属する本能的な動物行動ではなく、社会や文化の影響を受けるということだ。

 

例えば、夫婦間のセックスは、古代ギリシャ時代には少年愛よりも下位に置かれていた。しかし、17世紀以降に一夫一妻制が確立するとともに、その価値は高められていった。現代では、結婚のもとで生殖を目的とした挿入を伴う性交こそが、最も「正常な性行為」と見なされる。

 

家族という仕組みによって、性的欲望の中に法律と統制が組み込まれているのだ。例えば堕胎罪により、女性は中絶の自由を持つことができない。「 女の子宮はおクニのもの」である。

 

日本でも、江戸時代には、妻や母にする女は「地女」と呼び、夫婦間の性愛は低位におかれた。そして、性の快楽は遊女に求めるものだった。しかし明治時代以降の近代では、夫婦間のセックスが上位に位置づけられ、女性の性欲の存在は否定された。女が少しでも性欲を感じれば、「自分は異常に淫らな女」だと感じるような仕組みが無意識に埋め込まれた。女にとっては、ベッドに丸太のように寝転がって、身を任せることが愛の表現であった。

 

このようにセックスとは、その時代の規範と寝ているようなものだ。決して、動物のように本能の赴くままにセックスしているわけではない。

 

では現代における、女性にとってのセックスの規範とは何だろう。

 

「女性の快楽」について、1970年からの性革命は大きな影響を与えた。1968年パリの5月革命では「オーガズムは革命と同じ位重要だ」という標語が現れた。

 

1970年の日本では、女だけのデモ「便所からの解放」が叫ばれる。「便所」とは、排泄欲のような男の性欲処理機と見なされた女の隠喩である。「すぐ寝る女」は、男子学生のあいだで公然と「公衆便所」と呼ばれていた。

こうして女性の性が解放されていった。今やセックスの敷居は下がり、快感や欲望を満たす営み程度の位置づけであるが、当時、一部の女性において、「セックスは、人生をかけたもの」程の意義を持った。一方で、女性作家を中心に、「セックスから始まる愛」についても描写されるようになる。

「よく知らぬ他人の肉体の一部が具体的にわたしのなかに入ることだけで、はたして肉体の関係になるのかという興味」である。これが「動物になって生きる希望」と表現される。

 

つまり、動物的なセックスとは、「ジェンダーという社会的な装置」の外に出ても、性は成り立つか?という問いである。性に対する意識や価値観、社会によるマインドコントロールを全て取り除いて、残るのは身体の感覚と感情だけである。このような状況で行われるセックス。これこそが動物的なセックスである。

 

山田詠美の「ベッドタイムアイズ」は、セックスから始まる愛を描く。

 

「私とスプーンは溜息だけで会話している。あまりの気分の良さに叫ぶ事も出来ない。 快感すら訴えられない苦しさと素晴しさに、私は彼の上着をつかもうとする。偶然ポケットに触れた時、スプーンがビリヤード台の前で、しきりに愛撫していた例の物に ぶつかる。それが金属であること、また日常、最も親しんでいる物であるのに気づいた 時、私は体の芯にあれが来て、すべての感覚が麻痺してしまった。足を高々と上げた、そのままの姿勢で私は彼を見詰める。湿った私の額に張りついた髪の毛を指でつまみ彼 は私に、これから君の顔を思い出すたびにオレはマスターベイトするだろう、と言っ た。」

*「スプーン」は、男のニックネームである。また、男がポケットに持っているものも、「銀の匙」としてのスプーンである。

 

「私は体の芯にあれが来て、すべての感覚が麻痺してしまった。」あまりに美しいオーガズムの表現である。

 

また、男は、セックスの余韻でオナニーをすることはほとんどないが、セックスに満たされた女がオナニーする場合の、常套手段である。それで、スプーンはマスターベイトの話をする。男が満たされた喜びを、射精で表現せずに、この言葉で言い表している。

 

この例のように、セックスにおける女性の快感を積極的に描写する小説が次々に出版された。そして、女性の性が解放されていった。

 

今では、女は、愛や人生を賭けてセックスすることも出来れば、一方で、快感そのものを求めてセックスすることも出来る。これほどの振れ幅を、現在の女が持つことが出来ることこそが、1970年以降のウーマン・リブフェミニズムの成果なのだ。

 

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ベッドタイムアイズ・指の戯れ・ジェシーの背骨 (新潮文庫)

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